「年収が上がると損」は誤解|限界税率と実効税率の違い

「年収900万円を超えると税率が33%になるから損」。飲み会で聞くこの話、半分だけ本当で、結論は誤解です。昇給して手取りが減ることは、社会保険の壁と、2026・2027年分だけにある基礎控除の境目のごく近くを除けば、ありません。
累進課税は「超えた部分だけ」に高い税率
所得税の税率表は「課税所得900万円超は33%」のように書かれていますが、これは課税所得全体に33%かかるという意味ではありません。900万円を超えた部分にだけ33%がかかり、それ以下の部分は5%・10%・20%・23%の低い税率のままです(超過累進課税)。
だから課税所得が899万円から901万円に上がっても、税率が上がるのは超えた1万円分だけ。累進課税そのもので手取りが逆転することはありません。
例外は2026・2027年分の基礎控除です。上乗せの特例が段階的に縮むしくみのため、合計所得金額が489万円(給与だけなら年収約666万円)を超えると基礎控除が104万円から67万円に、655万円(同約850万円)を超えると62万円に下がります。この境目をわずかに超えたときだけは所得税が一度に1万〜4万円ほど増え、たとえば年収665万円から666万円に上がると手取りは約3万円減ります。境目から年収で数万円離れれば元に戻るので、気にするのは境目のすぐ上に着地しそうな場合だけで十分です。
限界税率と実効税率
「次の1万円にかかる税率」が限界税率、「税額÷収入全体」が実効税率です。たとえば年収800万円の会社員なら、限界税率は所得税20%+住民税10%で30%程度ですが、実効税率(所得税+住民税÷年収)は11%前後にすぎません。メディアの「税率33%!」は限界税率の話で、実際の負担感を表すのは実効税率です。
手取りベースで見た昇給の価値
| 年収の変化 | 手取りの増加(目安) | 増分の手残り率 |
|---|---|---|
| 400万 → 500万 | 約75万円 | 約75% |
| 600万 → 700万 | 約65万円 | 約65% |
| 900万 → 1,000万 | 約64万円 | 約64% |
(2026年分・独身・40歳未満・協会けんぽ東京の場合の目安)
たしかに年収が上がるほど増分の手残りは減りますが、数十万円単位の昇給で、増えた額より税金と保険料が多くなることはありません。「昇給を断る」「残業を調整して年収を抑える」は、手取りを減らす方向に働きます(配偶者の扶養範囲で働くパートの社会保険の壁だけは別問題。年収の壁の整理参照)。
高年収ほど効く「控除」
限界税率が高い人ほど、iDeCoなどの所得控除の節税効果は大きくなります。限界税率30%の人がiDeCoに年27.6万円拠出すると、約8.4万円税金が減る計算です(所得税には復興特別所得税を含む)。詳しくはiDeCo・ふるさと納税で手取りは増えるのかへ。自分の年収の実際の負担率は手取り計算機で確認できます。
出典: 国税庁 No.2260 所得税の税率、国税庁 No.1199 基礎控除、国税庁 No.1410 給与所得控除、総務省 個人住民税、国税庁 No.1135 小規模企業共済等掛金控除