iDeCo(個人型確定拠出年金)の積立金は、原則60歳から75歳になるまでの間に受け取り始めます。受け取り方は「一時金でまとめて」「年金として分割で」「一部を一時金・残りを年金で」の3通りで、どれを選ぶかによって税金の種類そのものが変わります。一時金は退職金と同じ退職所得、年金は公的年金と同じ雑所得です。この記事では、それぞれの税金の計算を国税庁の資料に沿って整理し、どんな条件で差が出るのかを具体的な数字で示します。

受け取り方は3通り、選べる時期は60歳から75歳まで

iDeCoの実施機関である国民年金基金連合会の公式サイトによると、老齢給付金は原則60歳から受け取れ、受け取りを始める時期は75歳になるまでの間で選べます。年金で受け取る場合は5年以上20年以下の有期年金が基本で、金融機関によっては終身年金を扱うところもあります。一部を一時金、残りを年金にする組み合わせは、取り扱っている運営管理機関とそうでないところがあるので、自分の口座がある金融機関の案内を確認します。

なお、60歳から受け取るには、60歳になるまでのiDeCoなどの加入期間(通算加入者等期間)が10年以上必要です。10年に足りない人は、受け取れる年齢が後ろにずれます。また75歳までに請求しないと、積立金は法務局に供託されます。

一時金で受け取る場合: 退職所得控除が使える

国税庁のタックスアンサー(No.1420)では、iDeCoの老齢給付金として支払われる一時金は退職所得とみなされると説明されています。つまり会社の退職金と同じく、退職所得控除を差し引いた残りを2分の1にした額にだけ税金がかかり、給与など他の所得とは分けて計算されます。iDeCoの場合は、掛金を出していた期間が勤続年数の代わりになります。

退職所得控除は、勤続年数(iDeCoなら加入年数)20年までは1年につき40万円、20年を超えた部分は1年につき70万円です。たとえば加入20年で積立金が600万円なら、控除は800万円で、600万円全額が非課税になります。iDeCoだけを受け取る人であれば、一時金は税金の面でかなり有利な受け取り方です。

注意が必要なのは、会社の退職金と同じ年に受け取る場合です。同じ年の退職手当等はまとめて計算し、期間が重なる部分の控除は二重には使えません。勤続30年で退職金1,500万円を受け取る人が、その30年の間に加入していたiDeCoの600万円を同じ年に一時金で受け取ると、控除は1,500万円のままで、収入は2,100万円になります。課税退職所得は(2,100万円−1,500万円)×1/2=300万円で、所得税と復興特別所得税は300万円×10%−97,500円=202,500円に102.1%を掛けて206,752円。住民税は課税退職所得の10%(東京都北区の案内では特別区民税6%・都民税4%)で300,000円。合わせて約50万7,000円の税金がかかる計算です。退職金だけなら控除内に収まって税金はゼロなので、iDeCoの600万円に対して約50万円の差が出ます。会社の退職金の手取りは退職金の手取り計算機で確かめられます。

年金で受け取る場合: 公的年金等控除の枠を公的年金と分け合う

年金形式で受け取るiDeCoは、国民年金・厚生年金と同じ「公的年金等」の雑所得になります。収入から公的年金等控除を差し引いた額が所得で、国税庁の速算表(公的年金等以外の所得が1,000万円以下の場合)では、65歳未満は年60万円まで、65歳以上は年110万円までなら雑所得はゼロです。住民税も同じ方法で計算されます。

ポイントは、この控除の枠をiDeCoと国の年金で分け合うことです。60〜64歳の間に他の公的年金等を受け取っていなければ、iDeCoを年60万円以下にすれば雑所得は出ません。一方、65歳以降に老齢年金を年200万円受け取っている人が、さらにiDeCoを年60万円受け取ると、公的年金等の収入は260万円になり、雑所得は90万円から150万円へ60万円増えます。所得税率5%の人なら、所得税・復興特別所得税(60万円×5.105%=30,630円)と住民税(60万円×10%=60,000円)で年およそ9万円の負担増です。10年続けば約90万円になります。

税金以外の負担もあります。国民健康保険の保険料(税)は前年の所得をもとに計算されるので、年金受取で雑所得が増えると保険料に響くことがあります。高崎市の国保の案内のように、一時金として受け取る退職所得は国保の計算に含めない扱いをしている自治体もあり、この点は受け取り方で違いが出るところです。さらに年金で受け取るときは、振込のたびに手数料がかかります。iDeCo公式サイトのコラムでは、年12回受け取ると年5千円強の手数料になると紹介されており、受取回数を減らすことで抑えられます。

退職金がある人は受け取る順番と間隔で税額が変わる

会社の退職金とiDeCoの一時金を別々の年に受け取っても、間隔が短いと控除の調整を受けます。国税庁のNo.2735によると、iDeCoの一時金を先に受け取った場合は、その後の退職金の前年以前9年内(2026年1月1日以後に受け取った一時金が対象)、退職金を先に受け取った場合は、その後のiDeCo一時金の前年以前19年内に前の受け取りがあると、期間が重なる部分の控除が差し引かれます。目安として、iDeCoが先なら10年以上、退職金が先なら20年以上の間隔があれば、この調整は受けません。

この間隔を空けられない人や、退職金だけで控除の枠をほぼ使い切る人は、iDeCoを年金で受け取るか、一部を一時金・残りを年金に分けて、それぞれの控除の枠に収める方法が考えられます。逆に退職金がない自営業・フリーランスの人は、加入年数分の退職所得控除をiDeCoだけで使えるので、一時金で受け取って非課税で済むケースが多くなります。

整理すると、比べる材料は「退職所得控除の残り」「65歳前後の公的年金等の収入」「国保の保険料」「受取手数料」の4つです。退職金そのものの税金のしくみは退職金の税金はいくら?、掛金を出している間の節税効果はiDeCo・ふるさと納税で手取りは増えるのかで解説しています。

税額は所得税率や各種控除、自治体の国保の計算方法によって変わります。実際の受け取り方を決める前に、運営管理機関や税務署、お住まいの市区町村で確認してください。

出典: iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会) iDeCoの加入資格・掛金・受取方法等、国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)、国税庁 No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき、国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係、国税庁 高齢者と税(年金と税)、東京都北区 退職所得にかかる住民税、高崎市 国民健康保険税の算定、iDeCo公式サイト 有識者によるiDeCoのコラム#4