出産は病気ではないため、通常の分娩費用には健康保険が使えず、全額が自己負担になります。その負担を補うのが、加入している健康保険から支給される出産育児一時金です。2026年10月時点の支給額は子ども1人につき50万円で、会社員本人が出産したときは出産育児一時金、会社員の扶養に入っている配偶者が出産したときは家族出産育児一時金として、同じ額が支給されます。この記事では、支給額が48.8万円になるケース、3つの受け取り方の違い、差額の受け取り方、退職後に出産する場合、2026年に成立した出産費用の新しい制度との関係を順に整理します。

出産育児一時金の支給額は1人50万円(2026年)

出産育児一時金は、2023年(令和5年)4月から42万円が50万円に引き上げられ、2026年もこの額が続いています。厚生労働省の資料によると、50万円の内訳は一時金本体の48.8万円と、産科医療補償制度の掛金にあたる1.2万円です。そのため、産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産した場合などは48.8万円になります。

ケース支給額
産科医療補償制度に加入している医療機関で出産(1人)50万円
産科医療補償制度の対象外となる出産(1人)48.8万円
双子を出産(加入している医療機関)100万円(1人あたり50万円×2人)

支給額は「子ども1人あたり」で決まるので、双子なら2人分、三つ子なら3人分が支給されます。また、協会けんぽの案内では、妊娠85日(4か月)以降の出産が対象で、早産・死産・人工妊娠中絶も含まれます。会社員が加入する協会けんぽ・健康保険組合だけでなく、自営業やフリーランスが加入する国民健康保険でも、基本の支給額は同じです。健康保険組合によっては、50万円に独自の付加給付を上乗せしているところもあるので、勤務先の健康保険組合の案内も確認してみてください。

受け取り方は3通り: 直接支払制度・受取代理制度・自分で申請

出産育児一時金は、本人の口座に50万円が振り込まれる形よりも、医療機関に直接支払われる形が一般的です。主な受け取り方は次の3つです。

受け取り方しくみ手続きの主なタイミング
直接支払制度健康保険から医療機関へ一時金が直接支払われ、窓口では50万円を超えた分だけを払う入院のときに医療機関で合意書を交わす(健康保険への事前申請は不要)
受取代理制度本人が健康保険に申請し、医療機関が代わりに一時金を受け取る。厚生労働省に届け出た一部の医療機関で使える出産予定日の2か月前から、医療機関の記入を受けた申請書を健康保険に出す
自分で申請(産後申請)窓口で出産費用を全額払い、あとで健康保険に申請して一時金を受け取る出産後に申請書を出す。期限は出産の翌日から2年

どの制度を使えるかは医療機関によって違います。厚生労働省も、直接支払制度を利用できるかは出産する施設に確認するよう案内しています。直接支払制度を使えば、退院時に数十万円をまとめて用意する必要がほぼなくなるので、妊婦健診の早い段階で、出産予定の医療機関に対応状況を聞いておくと安心です。

なお、出産費用をクレジットカードで払ってポイントを受け取りたいなどの理由で、あえて直接支払制度を使わず産後申請を選ぶ人もいます。その場合は一時金が振り込まれるまでの間、出産費用を立て替えることになります。

出産費用が50万円より安かったときの差額の受け取り方

直接支払制度を使い、実際の出産費用が50万円を下回った場合、残りの差額は本人が受け取れます。たとえば出産費用が46万円なら、50万円−46万円=4万円が差額です。反対に出産費用が56万円なら、窓口で6万円を払います。

協会けんぽの場合、差額の受け取り方は2通りあります。

  • 差額申請書: 医療機関からの請求が協会けんぽで処理されたあと、出産からおおむね3か月後に申請書が送られてくるので、それを提出する
  • 内払金支払依頼書: 申請書の到着を待たずに、出産後に自分から請求する。出産費用の明細などの書類を添える

早く受け取りたい人は内払金支払依頼書、手間を減らしたい人は差額申請書の到着を待つ、という選び方になります。どちらの場合も、出産の翌日から2年を過ぎると請求できなくなります。健康保険組合や国民健康保険では、差額を自動で振り込むところや書式が違うところもあるので、加入先の案内に従ってください。

退職後に出産するときは、どこから受け取る?

妊娠中に会社を辞めて、退職後に出産する人もいます。協会けんぽの案内では、次の2つの条件をどちらも満たせば、退職前に入っていた健康保険から出産育児一時金を受け取れます。

  • 退職日(資格を失った日の前日)までに、継続して1年以上その健康保険の被保険者だったこと(任意継続の期間は含まない)
  • 資格を失ってから(退職日の翌日から)6か月以内に出産したこと

この条件を満たさない場合は、退職後に加入した健康保険(夫の健康保険の被扶養者になったなら家族出産育児一時金、国民健康保険に入ったなら国民健康保険の出産育児一時金)から受け取ります。どちらからも受け取れる場合は、どちらか一方を選ぶ形で、二重には受け取れません。退職後は以前の保険証が使えないため、直接支払制度を使うには、元の健康保険から証明書類を出してもらう手続きが必要になることがあります。

なお、退職後の出産では、在職中に受けられる出産手当金(産休中の給与の代わり)は条件が別になります。産休中の収入については出産手当金の計算方法と社会保険料免除、育休に入ってからの収入は育児休業給付金の計算で確認できます。

2026年に成立した法改正で、出産費用はどう変わる?

2026年(令和8年)5月29日に、出産に関する給付の見直しを含む健康保険法等の改正法が成立しました。厚生労働省の概要資料では、通常の分娩について国が全国一律の基本単価を決めて健康保険から施設に直接支払う形(現物給付)に改め、あわせて全ての妊婦に定額の現金給付を行うとしています。施設の選択により、当分の間は施設ごとに現在の出産育児一時金のしくみを使い続けることもできるとされています。

ただし、2026年10月時点では、基本単価や現金給付の金額、新しい制度が始まる日はまだ決まっていません。厚生労働省では出産に関わる診療・ケアの内容を議論する検討会が始まった段階です。2026年中や2027年はじめに出産する人は、これまでどおり出産育児一時金50万円の制度で手続きをすると考えておいてよいでしょう。新しい制度の開始日が決まったら、出産予定の医療機関や加入している健康保険から案内があります。

出産育児一時金と医療費控除の関係

出産のための定期検診や検査、入院・分娩の費用は、所得税の医療費控除の対象になります。ただし、国税庁のタックスアンサー(No.1124)では、出産育児一時金や家族出産育児一時金は、医療費の額から差し引くとしています。差し引くのは一時金の対象になった出産費用の分までで、余った分をほかの医療費から引く必要はありません。また、産休中の給与の代わりに受け取る出産手当金は、医療費を補う給付ではないため差し引きません。

たとえば出産費用が56万円で一時金が50万円なら、医療費控除の計算に入れる出産費用は6万円です。同じ年に家族の通院費や歯の治療費などがあれば合算でき、合計が10万円(所得200万円未満なら所得の5%)を超えた分が控除の対象になります。手続きの流れは医療費控除の確定申告のやり方にまとめています。

出産育児一時金でよくある質問

夫婦ともに会社員の場合、どちらの健康保険から受け取る?

出産した本人が会社員として健康保険に入っていれば、本人の健康保険から出産育児一時金を受け取ります。夫の健康保険からも家族出産育児一時金を受け取って、合わせて100万円にすることはできません。

出産育児一時金は年収によって金額が変わる?

変わりません。年収や保険料の額に関係なく、子ども1人につき50万円(産科医療補償制度の対象外なら48.8万円)です。この点が、給与に応じて金額が決まる出産手当金や育児休業給付金と違うところです。

申請し忘れていたら、あとから受け取れる?

出産の翌日から2年以内であれば、あとからでも申請できます。直接支払制度を使った場合の差額も同じく2年が期限です。差額申請書が届いたまま出していない場合は、早めに提出しておきましょう。

この記事は2026年10月時点の厚生労働省・協会けんぽ・国税庁の公表資料をもとにした一般的な解説です。支給額の上乗せや申請書類は加入している健康保険によって異なるため、実際の手続きは加入先の健康保険・市区町村の窓口で確認してください。

出典: 協会けんぽ 出産育児一時金、協会けんぽ よくあるご質問 子どもが生まれたとき(出産育児一時金)、厚生労働省 出産育児一時金の支給額・支払方法について、厚生労働省 医療保険制度改正法が成立しました、厚生労働省 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)の概要、国税庁 No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例